「ゆめ まち びと」Ⅰ [ -「ゆめ まち びと」]
「ゆめ まち びと」――Ⅰ――
「君はもうすぐ死ぬよ」
もしも・・・
もしもそう言ったら
彼女は一体どんな顔をしただろうか
笑ったろうか
怒ったろうか
泣いたろうか
それとも・・・
だが彼女は逝った
私が『視た』通りに・・・
私には人の『死』が視える
このちからは神が与えたもうたものか・・・
日曜の朝。
朝食はいつものようにクロワッサンとハムエッグそれに少しばかりのレタス。
それらをきれいに片すとミルクをたっぷり入れた紅茶のカップを持ち上げ散歩ついでに買ってきた新聞に目を落とした。
妻に先立たれてからも全く変わらない朝の風景に思わず彼は笑みをもらした。
自嘲的な笑顔。
ゆっくりと紙面に並ぶ英文字を追っていく。大した事件は起こっていない。この街は相変わらず平和を貪っている。
エドワードは音をたてて新聞をたたむと足元に寄
ってきた“グレイ伯爵(アール・グレイ)”を抱き上げた。
「おはよう、伯爵殿(カウント)」
“グレイ伯爵”はエドワードの妻が拾ってきた雑種の小型犬だ。彼女が好きだった紅茶、アールグレイの名前をそのまま付けたのだがエドワードはただ“伯爵(カウント)”と呼んでいる。
古ぼけた椅子から腰を上げると餌入れとミルク皿を床に置きドッグフードとミルクを入れて“伯爵”を床に下ろす。
彼は短い尻尾をぶんぶん振って皿に顔をつっこんで食べ始めた。
その様子を見ながらエドワードは小さく眉をひそめた。
視えた
月曜の朝。
「信じられないわ」
サラは肩をすくめてそう呟いた。
「信じられない」
再び呟く。
「殺人犯ってのは休みも何も関係ないのね」
不謹慎な台詞を吐いてサラは黄色いテープが貼られた内側で毛布をかぶせられ転がっているそれに近づいた。
十字を切って毛布を外し、視線を走らせる。
「酷いわね・・・」
形の良い眉をひそめて毛布を再びかぶせる。
「滅多切りって言うの?あんまりよ」
朝早く、街の一角で一人の死が見つかった。
被害者は若い女性。ざっと見た限りで死後八時間は経っている。発見された場所が夜でも人通りの多い場所なので夜のうちに発見されてもよさそうなものだったが昨夜は濃い霧がたちこめていてここも人の足が絶えていた、ということが捜査官の一人によってサラに伝えられた。
「とりあえずこの辺りの聞き込みをしましょう。ここで殺されたならその物音を聞いている人間が一人ぐらいいてもいいものだわ」
おそらく徒労に終わるだろうことを予想してサラは言った。
昨夜の霧は彼女も見ている。
あまりの濃い霧に食事の予定をキャンセルしたほどだった。そんなときに出歩いている人間がいるとも思えない。
捜査員の一人が初老の男を連れてきた。
「死体の第一発見者のエドワード=ウォーカー氏です」
「初めまして。スコットランド・ヤード捜査官、サラ=クレメンツです」
二人は軽く握手した。
「少しお話を聞きたいのですがよろしいかしら」
月曜の夜。
誰もいなくなった署内に一カ所だけ明かりが灯っている。
こつこつこつこつといらだたしげに机を指ではじいてサラはため息をついた。
「もう・・・」
ほとんど真っ白のエドワードの調書を眺めてずるずると机に突っ伏す。
「どうしてほとんど話さないのよ。捜査に協力するのは市民の義務って言葉を知らないのかしら」
半日かかってやっと一言。
『散歩をしていてたまたま見つけた』
「胡散臭すぎるわ・・・」
そのまま彼女は夢の世界へと誘われていった。
火曜の朝。
“伯爵”を連れていつものように散歩していたエドワードは不意に足を止めた。
向こうの道に転がる影。
見覚えのある景色。
「あの時視えたうちの一人か・・・」
“伯爵”を側の電灯につなぐとエドワードは一人その影に近づいた。近づくとさびた鉄の臭いが鼻を刺す。
そっと十字を切ってため息をつく。
日曜の朝視えた『それ』は複数だった。
別にこちらが望んだわけでもないのにこのは助けを求めるようにエドワードに視せる。
『死』を――
だがしかし視えたからといって助けられるわけではない。
ただ視えるだけなのだ。
下手をすれば人の運命を狂わせかねないこの能力を彼は忌み嫌っていた。
「神はなぜこの力を私に与えたもうたか・・・」
呟いてエドワードはきびすを返した。
警察に通報するために。
日曜の朝。
いつもより目が覚めるのが遅かった。
新聞を持ってキッチンに入り腰を下ろす。
一面には大きな活字が踊っていた。
『連続殺人事件 霧の惨劇~二〇世紀の切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)~』
エドワードが『視て』から一週間。
これまでに三人の遺体が発見された。
被害者はいずれも若い女性。
犯行の手口が全く同じ、さらに死亡推定時刻が同時刻ということから同一犯の犯行とヤードはみている。そして――これは新聞には載っていないが――彼女らの第一発見者は全てエドワードだった。容疑者と疑われても仕方のない立場にいながらエドワードはさらに疑われそうな態度をとっていた。
ヤードの捜査に非協力的だったのである。
ざっと新聞に目を通してエドワードは立ち上がってコンロの火をつけた。水をたっぷり張ったポットを火にかける。
お茶を淹れてしばし逡巡する。
あまり食欲がないと判断して彼はスコーンを二つ取り出して皿に乗せテーブルに戻った。
再び新聞を開くと事件の記事をゆっくりと読み始めた。
「あれから一週間しか経っていないとは・・・」
小さく呟いて紅茶をすすった。







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by 過去最高記録更新中!何もしないでなぜ儲かる!?秘密の方法を限定公開中。今すぐクリック! (2010-05-02 20:40)